つむぎめむすび

つれづれなるままに、何気ない今日を。

倉敷ゲストハウス「有鄰庵」で紡がれた縁

初めてゲストハウスに行ったのは確か、大学2年か3年くらいだったと思う。尾道に行って商店街を歩いていた時、「あなごのねどこ」というゲストハウスを見つけたことがきっかけだった。「ゲストハウス」という言葉すら知らかった私には、とにかく「宿代やっす!」という印象だけが強く残った。

しばらくしてゲストハウスとやらについて色々と調べてみた。前々からビジネスホテルの高さに嫌気がさし(学生だったし)、雨風が防げればいいんだから安い宿ってないもんかなと思っていた私にとってドンピシャのスタイルだった。

そして、検索していく中で目を引いたのは、岡山県倉敷市の「有鄰庵」だった。ゲストハウス関連のブログを読めば必ずと言っていいほどこの宿が出てきた。「ここがゲストハウスの神的な存在なのでは?」勝手に、直感でそう思っていた。決めつけてた。

とはいえ、すぐには泊まりにいかなかった。
勝手に神的な存在にまで持ち上げてしまったから、なんか「ちゃんとした」時に泊まりたかった。「ちゃんとした」時がいつかなんてもちろん知らないんだけども。

 

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そして、時は来た。
その時が「ちゃんとした」時だったかは分からないけれど、有鄰庵に泊まったことによって、結果的に「ちゃんとした」時になった。しかるべき時に訪れたのだなと。

 

行ったのは大学4年の春だった。就活が面倒になって、逃げるかのように大好きな街である尾道に行き、その足で倉敷に向かった。前々から決めてたというよりは数日前に予約をとったと思う。ふと思い立って行ってみることにした。

倉敷自体は何度か行ったことがあった。泊まるのが初めて。びっくりしたのは最初にゲストとスタッフさん同士の自己紹介タイムがあったこと。どんなこと言っても盛り上げてくれるスタッフさんのコミュ力の高さに驚いた。

しばらくみんなで話してから、紹介してもらった銭湯はなんともあったかい雰囲気で、夜の倉敷も風情があって心地よかった。

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そして、私はスタッフさんに紹介されて、人生で初めて「一人居酒屋」を経験する。正直入るまでにかなり緊張したし迷ったんだけど、入った店のおじちゃんはすごく優しくて、次第に緊張もほぐれていった。

そしてその店に後から入ってきたのが、遅れてチェックインしたという2人組のお姉さんだった。

まさに就活で悩んでいる状況の私にとって、社会人として働く2人はすごくキラキラして見えた。
1人は一般企業に就職して結婚して幸せに暮らしたいお姉さん。1人は恋愛もお洒落も捨てて夢を追いかけて叶えているお姉さん。お互い相手のような生き方はできないと笑いつつ、それぞれを尊敬している様子がすごく素敵だった。
まさに、その時の私がどう生きるか悩んでいた選択肢だった。
2人の話はとても色鮮やかで、私にとって大きな、大きな意味を持った。

翌朝はバタバタして話すことはできなかったけど、あの夜を忘れたことはない。

 

夢を追い続けてもいいのだ。みんなが行くからその道にするのではなく、違う道を選んでもいいんだ。

 

そう思えてすごく心が軽くなった。

 

人には人の価値観がある。価値観が違うのは悲しいことじゃない。劣等感を抱くことじゃない。それぞれの生き方があるから社会が成り立っていくんだ。そして、自分の価値観を認めてくれる人は必ずいるんだ。

 

それからは、周りのペースに惑わされず「自分なりに」就活をした。就職をしてからも、新卒の会社を辞めてからも、幾度となくあのお姉さんたちを思い出す。関西に住んでいることしか知らない。名前も知らない。

それでも、きっと、これからも、私はことあるごとにあの2人のことを思い出す。

 

そんな出会いがあった有鄰庵。この縁は、やっぱりあの場所の持つ力だったのかなと思う。

先日有鄰庵が閉業することを知った。寂しけれど、これからもあの宿から紡がれていった縁は、色んな人の心の中で残っていくんだと思う。そして、また新しい形で繋がっていくのだろう。

 

世の中が落ち着いたら行きたい場所がたくさんある。倉敷、そして「有鄰庵」もそのひとつ。